留学

海外留学

海外留学には、専門性の追求に加えて、国際性の向上、視野の拡大、人脈形成といった様々なメリットがあります。これまで多くの教室員が海外留学し、日本では得られない貴重な経験を積んでいます。基本的に大学院修了後に海外留学可能としており、特に留学先の指定はなく、個人の研究分野や興味にあわせて、世界中のどの国の大学、研究施設でも候補になり得ます。

スタッフメンバーの留学先

  • 氏家 英之:National Institute of Health (Ethan Shevach Lab., USA)
  • 夏賀 健:Cancer Research UK Cambridge Research Institute (Fiona Watt Lab., UK)
  • 渡邉 美佳:University of Turin (Giacomo Donati Lab., Italy)
  • 伊東 孝政:Columbia University (Huang Yuefeng Lab., USA)
  • 村松 憲:Agency for Science, Technology and Research Singapore (Florent Ginhoux Lab., Singapore)
  • 髙島 翔太:University of California San Diego (Bryan Sun Lab., USA) 

留学中教室員の近況報告

宮内 俊成

留学先: The Francis Crick Institute, Chromosome Replication Laboratory (John Diffley lab., UK)
留学開始時期: 2022年6月


Clickの外観

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2022年6月からロンドンにあるFrancis Crick InstituteのChromosome Replication Laboratoryで留学生活を送っています。

Francis Crick Institute

Crickは2016年に開設され、ノーベル賞受賞者のPaul Nurse博士が所長を務めるヨーロッパ最大の生物医学研究所です。ロンドン中心部のキングスクロス駅、セントパンクラス駅のすぐ隣にあり、世界各国から集まった約1500人の研究者が様々な分野の研究を行っています。ただ、日本人は意外と少なく、10人程度しかいません(2024年6月現在)。
研究所内外の作りは非常にモダンで、研究・コラボレーションがスムーズに進むようあらゆるシステムが構築されています。また、自分の研究を行うだけでなく、Crick内外の研究者や企業とのコミュニケーションを促す場や分野外の研究に触れる機会も多く設けられています。
2024年6月に天皇陛下が英国訪問された際には、公式行事の一つとしてCrickも訪問されるなど、英国肝煎りの研究所であることが伺えます。

Chromosome Replication Laboratoryでの研究生活

PIのJohn Diffley博士は約40年に渡り、DNA複製と細胞周期制御に関する基礎研究を行っており、当該分野の第一人者です。グループメンバーは15人程度で、国籍は10ヵ国ほどに及びます。それぞれのバックグラウンドは異なりますが、現行プロジェクトとしてDNA複製関連の精製タンパク質を用いた生化学実験を行っている人がほとんどです。私自身は博士課程で染色体の組換え現象とDNA複製ストレスの関連を研究していた関係でJohnのことを知る機会があり、幸いなことにポスドクとしてグループに加わる機会を得ることができました。現在はヒト細胞を用いてDNA複製開始前の細胞周期制御(G1-S期の移行制御)に関する研究を行っています。
Johnのアイデアや意見をいつでも聞くことができ、また潤沢な予算と設備がある環境は非常にありがたいものですが、一方で、Johnの指導スタイルはマイクロマネージメントとは真逆のため、ある程度自身での研究遂行能力を求められます。その分、ポスドク、博士課程学生の間でのディスカッションも活発で、お互いに良い刺激を受け合いながら日々の研究を行っています。

研究以外のロンドン生活

ロンドン北部のTotteridgeという街に住んでいますが、そこは日本人も一定数住んでおり、のどかで安全な地域の一つです。渡英当時5歳と3歳だった子供たちは共に現地の学校に通い、英国スタイルの学校生活を満喫しています。また妻はママ友にも助けてもらいつつ、生活を支えてくれています。
ロンドン自体が多くの魅力に溢れていることは言うまでもありませんが、ロンドンからはイギリス国内だけでなく、ヨーロッパ各地へのアクセスもよく、日本国内を移動するような感覚で旅行を楽しむことができるのは大きな魅力の一つです。
さらに、個人的には家の近くにあるテニスクラブのチームに所属することで、地域の人たちとの繋がりも楽しむことができています。

最後に

臨床医にとっての研究留学は一定期間臨床業務を忘れ、研究のことだけを考えられる貴重な時間でもあります。もちろん留学先でのプロジェクトに集中できますが、同時に将来何をしたいのか、何ができるのかをゆっくり考えられる期間でもあります。その点、Crickは上述のように自身の研究分野外の研究者や研究領域に触れる機会が多くあり、多くの刺激を受けることができます。研究留学の機会をいただいていることに感謝しつつ、帰国後、皮膚科領域へどのように還元できるのかを考えながら充実した時間を送りたいと思っています。
2024年8月末日 宮内 俊成

Crickのエントランスから見上げた様子

Crick内でグループメンバーと集合写真

今福 恵輔

留学先: Ludwig-Maximilians-University (Jens Waschke Lab., Germany)
留学開始時期: 2023年4月

ラボの外観

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2023年4月より南ドイツはバイエルン州の州都ミュンヘンにあるルートヴィヒマクシミリアン大学 (LMU)にて研究留学させていただいております。LMUは1472年に設立された、ドイツの中でも歴史の長い大学の一つです。研究室はミュンヘン中央駅から徒歩10分くらいで、非常にアクセスのよい町中に位置しています。自分がミュンヘンに来た当初、日本ではまだマスクを装着している人が半数以上いたように思いますが、ドイツでは誰もマスクを着けていません。ミュンヘンには妻と2人の子供と一緒に来ましたが、バイエルン州では近年のベビーブームにより、多くの子連れファミリーが居住しているため、多くの子供向け施設やイベントがあり子連れに対しては多くのドイツ人が非常に親切にしてくれるので、非常に子育てがしやすい地域でもあります。ミュンヘンはドイツで一番物価が高く、昨今の円安も重なって、すべての買い物が家計を圧迫している状況ではありますが、ビールは多くのレストランで直接醸造していたりと味も千差万別でとても楽しめますし、バイエルン料理もボリューム満点でソースにハウスビールを使っていたりと個性豊かな料理が多いです。
さて、自分の働くラボはデスモソームやシグナリングについての研究を古くから行っていて、それらを軸としていくつかのグループに分かれています。大まかに天疱瘡グループ、心臓グループ、イメージング、上皮バリアグループなどに分かれていて、グループごとに協力しあって研究がすすんでいます。また国際色も豊かで、スタッフにインド、エチオピア、メキシコなど、ヨーロッパ外からの研究者も含まれています。また、課外活動の成績に影響するため、学生のリクルートも盛んで、定期的に複数の医学生がラボで実験を行っています。現在自分は天疱瘡におけるタイトジャンクションの動態について研究を行っていますが、実験とそのデータ解釈のディスカッションに日々多くの時間を費やしています。また月に1回のジャーナルクラブと2-4週ごとにボスに直接データを見せるミーティングと、3週ごとにラボミーティングがあり、長めのディスカッション時間が設定されています。目標の一つであった2024年のESDRに演題登録することもできました。
ほかにはオンとオフのメリハリがかなりはっきりしていて、夏季休暇とクリスマス休暇はラボのメンバーの約半分が休暇に入ります。休暇は年間30日とれるらしいのですが、自分は日本での働き方があまり抜けておらず、あまり休暇を取得できておりません。ドイツ生活も2年目に入り、レストランや店ではドイツ語で注文したりするのも慣れてきたので、近隣諸国へ足を延ばしたいとも思っています。
ドイツに来てから約1年、子供たちは4歳と2歳になり上の子は自分よりもドイツ語がうまくなってしまいました。一方自分の英語力はあまり変化していないので、子供の成長の早さを感じる日々です。最後になりますが、海外留学をという貴重な機会を与えてくださった氏家教授並びに北大皮膚科の皆様、及び一緒に渡独してくれた妻と娘たちに感謝いたします。

ラボメンバーで近所の湖へ

左が1Lジョッキで右が500mLジョッキ

眞井 洋輔

留学先: Harvard Medical School (Koehler Lab., USA)
留学開始時期: 2024年6月

View Bostonという展望台から撮ったボストンの街並みです。左端にはCharles Riverが見えます。

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2024年6月中旬に渡米し、同年7月からHarvard Medical Schoolの教育病院の一つであるBoston Children’s HospitalでResearch Fellowとして働き始めました。

Boston Children’s Hospitalについて

Boston Children’s Hospitalはマサチューセッツ州ボストンにある主要な医療・教育・研究拠点であるLongwood Medical Areaに位置します。同エリアにはBrigham and Women’s Hospital、Dana-Farber Center Institute、Beth Israel Deaconess Medical Centerなどがあり、文字通り歩いてすぐの距離に世界的に有名な施設が並んでいます。Boston Children’s Hospitalは小児医療で世界的に有名ですが、所属するラボ自体はCenter of Life Scienceという研究棟にあり、Beth Israelの研究者なども他の階で研究していますが、medical doctorやpatientとの接点はほとんどありません。

ラボについて

Koehler LabはiPS細胞を使ったオルガノイドの研究室で、PIのKarlはinner ear organoidやskin organoidのpioneerです。ラボはskin organoidチームとinner ear organoidチームに分かれ、上級研究員が1人、ポスドクが私を含め3人、research assistantが4人、PhD studentが1人、ラボマネージャーが1人というresearch assistantが多めの構成メンバーになっています。Skin organoid自体は最初の分化のステップが若干忙しいですが、分化誘発後18日後には数日に一回培地を交換して長くて150日ほど培養を続けるという気長な実験系なので、research assistantがルーチンの細胞管理や培地交換などを行なってくれます。オルガノイドは培養中もlive imagingが可能ですが、ラボが有するconfocal microscopyは予約でいっぱいなので、それもまた気長に待つ必要があります。今は実験で手を動かす時間が長いというよりは実験計画についてKarlや同僚とdiscussionしたり、lentivirusやxenograftingの系を立ち上げるためのpaperworkやgrant writingに時間をかけている状況です。

ボストンの生活について

ボストンは気候も環境も比較的日本に近い印象で、地下鉄なども比較的恐怖感を感じることがなく乗ることができます。ただ、家賃や物価は非常に高く、2 bed roomで4,000ドル/月とそれだけでポスドクの給料がほぼ飛びます。外食は高過ぎでまず無理なので、お昼はお手製の弁当を作って食べています。いわゆるアメリカらしい食事をそれほどしていないことと、毎日ラボ〜家間で往復1時間歩いているためか、去年から比べて10 kg以上の減量に成功しました。アメリカに来たほうが健康的になれそうです。
渡米してから車を購入し(10年落ちのトヨタ RAV4が17,000ドルもしました。。。)、日本にいる時よりもたくさん運転して走り回っています。マサチューセッツの運転の荒さはとても酷く、paper driverに近かった私にとっても気軽にめちゃくちゃな運転ができます。ボストン掲示板という日本人コミュニティからdining tableを買った時には、2トントラックを借りてめちゃくちゃな道路のボストン市内をAC/DCを聴きながら走りましたが、最高にスリリングでその時が一番アメリカに来たなという感じがしました。

最後に

まだまだ来たばっかりですが、感動も多ければ苦労もたくさんあります。34歳と若いとは言えなくなってきた年になっていますが、こんなにも日々成長しなくてはいけないと感じる機会を得られたのは本当に良かったと思います。アメリカという距離的に遠い場所にいますが、北大皮膚科にいる皆様に少しでも多くのことを還元出来ればと考えております。
このような機会を与えてくださった氏家先生、そして留学後も数多く相談に乗ってくださった夏賀さん、留学前後の準備をたくさん教えてくださった渡邉さん、伊東先生、村松先生、高島さん、留学前にたくさん飲み会を開いて下さった同僚や後輩の皆様には感謝しても仕切れません。また、留学に付き添ってくれた妻の翔子先生や子どもたちには僕以上に負担をかけていますが、家族がアメリカでも幸せになれるようにこれからも頑張っていきたいと思います。

私たちはボストンの隣町であるブルックラインに住んでおり、写真はブルックラインの中心地であるクーリッジコーナーのアイコン的存在であるS. S. Pierce Buildingです。

月に 1回ラボのメンバーと遊びに行くイベントがあり、ボーリングに行った時の写真です。スコアの勝負はボスのKarlが優勝しました。

海外留学生の受け入れ

北海道大学皮膚科では海外からの大学院生や研究員の受け入れも積極的に行っています。普段から英語でコミュニケーションを取ったり、英語でのグループディスカッションを行ったりすることで医局内・研究室内の国際化を図っています。

 Jin Teng Peh

大学院生
出身国: マレーシア
出身大学: First Moscow State Medical University I.M Sechenov (Moscow, Russia)
北大皮膚科への所属: 2018年4月

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In April 2018, I started a whole new chapter of my life as a first-year doctorate course student. I am actively working on compound screening for Nagashima-type palmoplantar keratosis. This disease is known to have a nonsense mutation, and readthrough therapy could be the potential cure for it. Before starting my doctorate course, I had never thought that it would take months of repeating experiments to provide some worthwhile data that could support my research. The members of my lab taught me how to do various experiments and analysis. It has been a tough journey so far, but rewarding at the same time. I’ve come to realize and appreciate the time and effort required in this field. I am glad to be a part of this big family and thankful to all the nice colleagues I have met, and am truly grateful for all the opportunities given by the university and the department. Outside of research, I was given opportunities to learn more about clinical work and got to see first-hand how the patients suffer from the disease, which motivates me to work harder to contribute to the discovery of potential cures. It can be a bit challenging studying in a new country, but what I have learned and experienced has made it all worthwhile. During my stay here, I have experienced the culture and beauty of Japan. Life in Hokkaido has been amazing, it is such a great city to live in. It is not as crowded or compacted compared to other big cities and I enjoyed the pace of living here. The people are friendly and helpful to foreign people, especially when I struggle to speak in Japanese. Loving the rich and varied seasons and the many wonderful surprises I have come across and looking forward to what lies ahead in the upcoming years.

Yunan Wang

客員研究員
出身国: 中国
出身大学: China Medical University (Shenyang, China)
学位: 2021年3月 博士号取得(北大皮膚科)
北大皮膚科への所属: 2016年10月

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The decision to study abroad at Hokkaido University has totally changed my life. I have many precious memories so far. The topic of my study is mouse tail skin patterns. There are many animals that have patterns such as zebras and tigers. People also have these patterns. Although this kind of phenomenon exists in many animals, the mechanism underlying the development of such epidermal patterns is still not well understood. I am studying collagen XVII’s relationship with epidermal patterns. It is very interesting. I also became more enthusiastic to learn more and more and to do lots of research. The people in the department of dermatology are all very kind and supportive. They really helped me a lot after I came to Japan. I was moved by their passion and earnest approach to science. Besides that, it is really nice to have this opportunity to learn more about Japanese culture. It also gives me the chance to learn about cultures from other countries by making many foreign student friends. It’s really amazing to be able to be together with students from different backgrounds, experience the cultural differences and broaden my horizons. It helps me to expand my vision and to know there are many interesting things I want to see by myself in this world. I have been traveling around Hokkaido and enjoying the beautiful landscapes. These years are really very important in my life. I honestly believe I have become a better version of myself due to all of my wonderful experiences here.